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F・・・藤巻 暁氏
W・・・wine-navi インタビュアー 石井

【第4話】
W:最近、景気の問題などで、一層ワインの業界が厳しくなってきたのではないかとおもいますが、どのようにお感じでしょう?

F:はい、おっしゃる通りだと思います。
でも、この話をするとかなり長くなりそうですね~。それでもいいですか?

W:覚悟しましょう。お願いします。

F:どこでも言われていることですが、今は厳しい時代で、レストランなんかは、一部のお店を除いて殆どが、かなりギリギリのところで堪えているっていう感じだと思います。知り合いのソムリエや料理人もかなり深刻な状況に追い込まれていると言って、対策を練っています。
特に外資系金融のお客さまでもっていたようなお店では、一時、軒並みキャンセルが続出し大変だったようですし、その後閑古鳥が鳴くという事態が続いていると聞きました。
国内でも不動産業界が難しい状況にあるので、そのみちのお客様はめっきり減り、接待や領収書のお客様も無に等しくなったと聞いています。これからより一層厳しい状況が続くと覚悟しております。
自分の所属する店に関していえば、今のところそこまでの影響はみられず、もう少ししてから徐々に影響が出てくるのではないかとみています。
皆が節約にはしり、レストランで食べるような贅沢を極力避け、逆に自宅で飲む回数が増えると思います。このため、小売店などへの影響がでてくるのはやや遅れますし、レストランと比べダイレクトではないでしょう。現に景気が悪くなってもお酒を飲む人は金額の面は別として変わらず飲むわけで、逆に飲む量が増えたりするかもしれません。また、それだけに「景気が悪くなってもお酒屋さんは強い」と言われてきました。
レストランに話を戻すと、レストランで飲むワインの価格設定が高いという声がもっと出てくると思いますから、ワインをお店に持ち込みたい人たちが増えてくるとも考えられますので、BYOも一つの手かも知れませんし、様々な手でしのいでいかなければならないでしょうね。かなり深刻です。
最近は酒販免許の規制緩和で、コンビニをはじめいたるところでお酒を扱うようになり、とても便利になったと思います。それだけに、逆にいえばお酒屋さんが増え、競争率が高くなったわけですし、どこも生き残れるわけではなくなってきたと思いますので、我々も含め「景気に強かったお酒屋さん」たちも今後は厳しくなると考えています。
また、ハイエンドの方々でそれまで高額品を頻繁に買われていた人たちが減ったため、高めのワインは今までより売れなくなってくるでしょうね。

W:どこもきついみたいですね~。

F:為替の影響もあって、インポーターさんも非常に苦しいでしょう。仕入れ額の大きいところは、相当大変だと思います。ボルドーの先物買いなんかで、高い時に買ったものは安売りできないわけで、アンプリムールで先にコンシューマーからお金を徴収している場合、インポーターサイドは問題ないとしても、そうでない場合は大打撃です。勿論既に入金しているコンシューマーにとっては、安く買ったつもりが実は安くなかったという現象だって起こりえます。
お客様のなかから、「円高差益還元セールはいつですか?」という質問もしばしば受けるようになりました。そうしたことが実感できるのに半年以上はかかるでしょうが、実際既に「円高差益還元セール」のようなことをこの時点で実施しているお酒屋さんがあります。あれは、先を見越して行なっているだけで、現時点で既に仕入れ価格が反映されてのセールではない訳ですが、お客さんからみたら、「他の店でやっているのに、何故お宅の店らはやっていないのだ?」っていわれたりもしますが、実質仕入れ価格が安くならなければ不可能なわけです。といいながら、そのうちやるはめになるのではないかと思いますが(笑)
で、インポーターさんがきついということは、我慢しきれなくなった業者の中には、持ちきれなくなった在庫を放出したいため、値下げしてくることも考えられます。また、世界的な不況で、それまで所有していた業者または個人から放出されるワインが出回る可能性だってあるかも。ファンドとしてワインを購入していた人や、そこまで大掛かりではないにしても転売目的でワインを購入していた人たちがワインを放出してくる可能性も考えられますから、今お金を持っている人には有利かも知れませんね。しかし、購入する時には気をつけた方がいいですよね。以前、「香港に保管されていた状態が芳しくないワイン」なるものが輸入されたとか、されるとかというのが問題になりましたが、どんな保管状況だったのかもわからないものも中には今まで以上に出回る可能性だってあるでしょうから。後でそのことについては触れたいと思います。いずれにしても状況が芳しくないことにかわりはありませんがねぇ。

W:ワイン無法地帯ってわけですか?とすると安心なものをセレクトしなければならなくなりますよね?

F:自分の使える“限りある金額”の中から、できるだけ良いものを如何にしてゲットするかを考えるのは、買い物において皆当然のことだと思います。だからワインにおいても誰もが安く買いたいのは同じでしょう。
しかし、言葉が足りなければ誤解になりかねないので、それがないように、ここからはとても慎重に話したいと思います。
個人的には“ワインは値段による”と思っています。これは、ワインは高いほうが旨いといっているのでもなく、安いのがまずいと言っているのでもありません。美味しい思いをしたければ、それなりのお金は掛かると言っているのです。「安くても美味しいものはあるのではないか?」と言うかも知れません。勿論安くて美味しいものもあるし高くても今一のものもあるその通りだと思います。だからこそ、常にできるだけコストパフォーマンス(以下CP)の高いワインをいち早く発見し、人気が出て価格が上がってしまう前にお客さまにお薦めしたいと、常に考えているのは基本スタンスです。高ければ美味しいとは限らないですし、「良いソムリエは、決して高いワインを薦めないよね!」というお客さまの声を聞くと同時に、それを期待されています。高いお金を払わなければ美味しくないのでは、ワインはお金のある人にしか楽しめない飲み物ということになってしまい、面白くないですしね。この部分は、常に自分の基本スタンスでいたいというのが前提にあります。しかし、最終的によりよい思いをしたければ、ケチらない方がいいと感じさせられ続けてきましたし、様々な側面からやはり“ワインは値段による”と強く感じます。ここでいう“ワインは値段による”は、大いに私見が入りますが、自分の話を最後までちゃんと聞いて理解してくださった方々であれば、今まで殆どの方が賛同してくださいますので、長くなりますが、どうか聞いてください。
まず、どれを高いと感じ、安いと感じるかという価値観や基準は人により相当異なるでしょう。何をもって品質が高いのか、また、好みの問題もでてくるので、ワインを飲みなれていない方がワイン通の好むワインや高額品を飲んでも美味しいと思わない場合が多いわけですし、飲みなれた方々ばかりでテイスティングしても意見は皆バラバラだったりしますから、旨いまずいなんて軽々しくいえないことも事実です。品質が高いといわれるのはわかるけど、自分の好みでないという場合だってあるでしょう。
アメリカ人の嗜好に合い、アメリカでは人気が高くすぐに売り切れるのに、日本では入手し易く価格も比較的安いとか、その逆のパターン、または為替の問題も入ってくるでしょうし、ワインを投資として考えている人が多いお国柄、少ないお国柄などのこともあるので、価格は場所によっても異なります。
目玉商品としてその時だけ安く出している格安提供品とか値段の付け間違い、以前のままの値段で売られていたなどの超例外的な話をしているのではないんです。また、珍しいから高いとか不当に高い場合だってあるでしょう。そんなレアなケースを取り上げても仕方ありません。普通に常識的にワインを購入し、飲んで楽しむにあたり、やはり大体の場合良いものはそれなりの価格になると思います。
例えば、1000円のワインに1万円のワインの味は出せないと思います。これも誤解を招く言い方ですね。ちょっと聞いて下さい。CPが高いものというのはあると思います。例えば、ワインが造られ市場で売られるにあたり、どんなに手をかけて造られたものであっても、実は数千円で充分な潤いが生産者にいくと仮定します。そしたら市場で売られているリリースされたばかりのワインで、もし10万円で売られているものがあったとしたら、どこかの関係者が相当潤っているかも知れません。それを考えると数千円でも充分に品質の高いワインを探すことができるわけですから、CPの高いワインというのはありえます。「品評会で無名ワインが誰もが知っている有名銘柄に勝った!」というがあったりします。売り文句には使いやすいですが、品質が超えているかどうかっていうのは微妙な場合も多いでしょう。で、そんな中、噂だけでなく本当に品質が高ければ、または、消費者に受け入れられれば、それはお買い得でCPの高いワインといえます。しかし、そんなによいものであれば、いずれはある程度の価格にまで値段が上がってしまうわけですから、1000円のワインではなくなってしまうでしょう。ワインがまだ値段の釣上がる前であれば、品質のよいのにお値打ちなワインだったけれど、皆が良いとわかれば需給のバランスで値段は高くなります。そのワインのもつ品質や歴史、その他背後にあるストーリー、噂、売り文句など様々な要因で価格はついていきますので、それなりの「適性価格」になりますよね。
リリース時1万円程度だったものが、後々プレミアム価格で数倍になるケースも見ますが、そういう仕入れ価格だったから、そのお店ではそんな高値で販売していたわけで、ぼったくっているケースは少ないでしょう。また、それでも買う人がいるとの見込みで仕入れているのでしょうから・・・。先ほどの例と同様、プレミアムがついて高くなっているものは、珍しいからとか戦略的に宣伝されてなどという理由以外では、大体の場合「美味しいから」「品質が高いと認める人が多いから」などの理由で高値がついているわけで、やはり良いものはそれなりの価格になるということがわかります。
また別の側面として、ワインは保管が大切なポイントとなる、とよく言いますが、全くその通りだと思います。
ワインの飲み頃というのも意見の分かれるところですが、長く保管され熟成状態にあるワインは、それが絶妙なタイミングであれば、時間でしかなしえない、えもいえぬ液体に進化し、言葉にならない感動があったりします。また、そうした良い状態で飲むことを想定して、リリース時に購入し自分の手元でその経過を見守ることは、楽しみの一つであり最も安全な道といえるでしょう。でも、ご自分のことをよく考えてみて下さい。数年前に買ったグランクリュが飲みたくてうずうずしていませんか?これをご覧の皆様であれば、1980年代や70年代のワインを、特別に古いワインだとは思わないでしょう?もうすぐ2009年ですが、1980年ヴィンテージのワインは約30年近く経過しています。逆に今リリースしたての2005年を購入し30年後に飲もうと考えるとどうでしょう?たった3年前に買ったワインがもう飲みたい人は、どうすればいいのでしょう?3年も待ったのに・・・という感じで・・・最近は早く飲めるように造っているから30年待たなくても20年で熟成するとしましょう。それでも遥か先の話となりますね。つまり自分のセラーで20年、30年という時を経てその状態にまで至らせることは至難の業で、おじいちゃんの時代から代々受け継がれているワインを所有していれば別ですが、最近になって一から集め始めたのでは、ワインが飲み頃に達するまでに、気が遠くなるほど長い年月を待たなければならず、とてつもなく強い忍耐力がなくてはなりません。またその頃健康にお酒を飲める状態にあるとは言い切れません。自分がみる限り、多くの人たちが好んで若いグランヴァンを購入してはみるが、折角苦労して購入したのに、熟成のピークを待ちきれずに飲み、「あれはまだ若くて硬かった」といいます。そういうパターンをみたりしませんか?ではこうならないための対策としてどんな方法があるでしょう?
飲み切れないくらい沢山のワインを買うという手もあるでしょうし、そのワインのことを一度忘れるのも一つの手ですね。
自分を含めて、手元にあるワインが飲みたくて飲みたくてたまらなくなり、ついつい早いうちにあけてしまいがちです。倉庫などにあずけて、なかなか手元に持って来れないようにする方法はありますが、その場合でも忍耐力は必要となりますね。だから、もし熟成したワインが飲みたければ、自分なら、リリース時よりは多少金額が上がったとしても、既に熟成しているワインを信頼できるルートで入手している信頼のおける店で、信頼のおけるスタッフとの話しの中で、実物を手にとってみて確認し、購入し飲みます。よほど入手困難な商品であれば別ですが、そうでない場合には、ズバリでなくても近いものであれば後になっても入手できるものは多いです。
ワインは温度や湿度その他にデリケートな飲み物だといわれ、それなりの環境で保存するのに、かなりの設備投資と維持管理費用が掛かることは皆さんお分かりでしょう。ワインの保管料がどのくらいするのかは、自宅セラーを地下などに造る、冷蔵庫型のセラーを買う、保管業者に預けるなどの方法がありますが、いずれにしても、飲み頃のワインに育てあげるのにはある程度のお金が掛かります。ワインが造られた後、生産者から運び出されて輸送され、あるものは中間業者に長い年月保管されたもの、あるものはオークションを経て、あるものは生産者から数ヶ月もかからずに我々の手元に届きます。ワインの売値はどの場合でもそれらの料金が含まれているわけですが、飲むまでに保管のためのお金が多少なりともかかっています。それぞれの経緯でお金が殆どかかっていなければ、ワインはその分安く仕上がりますし、ある程度のお金がかかっていれば、その分売値は高くなります。この生産者の手元を離れ、レストランやワインショップに置かれるまでの途中段階で大切にされ、保管にお金がかけられているにも関わらず安く売っていることは、ありえません。もし、そんなワインを見たら「あやしい」と思ったほうがいい。
このことから言っても、同じワインで妙に安い価格で売られており、一瞬ラッキーと思われたとしても手をつけない方が賢明だと思います。だめもとで購入し旨かったらラッキーですが、常にあたるわけでもありません。またそのスリルを楽しんでいるのであれば構いませんが、ハズレた回数の投資分を考えたら、結果損をしてしまうんではないでしょうか?
そのいい例として、私の知り合いで、定期的にワインの会を開いている人がいて、その人は市場で売られているワインの中で、その銘柄の最も安く売っているものを集めてワインの会をやっています。かなりよいと言われる銘柄を揃えてくれるので、勉強のためと楽しむために以前よく参加していたのですが、出されるワインのなんと平均1/3~1/4くらいがかなり劣化しているワインでした。また、その会でそれまでに百種類以上のワインを飲む中で、印象に残るワインというのは一種類しかありませんでした。よいものに当たる確立が極めて低く、劣化しているものにあう確率が極めて高いというわけです。感動が少なくて、しかも明らかに劣化しているワインが多いようでは、行く意味がないと考えてしまいました。また劣化しているワインを飲んでも、その銘柄を飲んだとか、あるべき姿を体験したことにはならないから、当然そのワインの味わいを語ることはできません。“劣化したワインというのがこういう味わいになる”という勉強にはなるのかもしれませんし、“その銘柄の劣化した一つのかたちを体験した”とはいえますが、そのために参加したわけではありませんからねぇ。しかし、参加者の中には、劣化と感じない人もいましたし、またその人たちが、様々なところに行って、そこで飲んだワインのことを「シャトー○の○年は、いまいちだった」とか、「こんな香りがするワインで・・・」と言っているのを見て悲しくなってきました。
主催者は“会費が高くならないように”という配慮からそういう趣旨でワインを安く集めているのですが、こういった結果を招いており、自分はその考えに賛同はできません。ケチって通常価格よりやたらと安いワインを買ってラッキーと思っていたら、飲んでみてがっかり!結果、逆に高くついたりします。
別の機会に友人から「熟成したラ・ターシュを飲むのだが来ないか?」といわれて参加したことがあり、会のメインでだされたそのワインが酸化し酢のような状態になっていたことがありました。以前飲んだ同年号のラ・ターシュとはあきらかに異質のものと化していたと同時に、ボトル差とは言えないものを感じました。ラ・ターシュは元々それなりの額がするので、その人は奮発して買ったらしいのですが、他に売っている同じ年号のラ・ターシュよりも、かなり安い方を選んで買ったらしいです。しかもその人は、劣化したワインに頻繁に当たるのだといっていました。有名銘柄での優良年で、確かに元々の絶対額は高いのだが、その高いワインの中でケチって買っていました。つまり高級なラ・ターシュのようなワインを購入はするが、購入時にその年号の中で一番安いラ・ターシュを選ぶというような買い方です。どこかでケチっていたのでは、本当によいものにはなかなか当たらないと思います。「な~んだ、こんなもんかな!?噂ほどたいしたことないね!」ということが多く、感動もないのにはそんな一因があるのかもしれませんよ。

高級ブランドや宝飾品などのブティックの方やレストラン、ホテル、航空会社のように、接客に関するそれなりの教育を受けてきた方、或はその道で活躍されている一流のサーヴィスマンであっても、お客様からクレームをいただくことがしばしばあります。かなり優れた人でも、ある程度レベルの高い接客をしている所であったとしても、逆にそれだからかも知れませんが、そうした場所に訪れるお客様から文章や口頭での接客などに対するクレームをいただくことがあるはずです。
ある程度の額を払っているのだから、それなりの接客を期待こともあるでしょうし、
もっと良くなって欲しいからという期待を込めておっしゃる方もいるでしょう。
そんな中、ちょっと名前は忘れましたが、「・・・の法則」では、嫌な思いをした時には14人の人にその話しをするが、良い思いをしても4人の人にしか話さないというものです。悪いことの方がよく噂されがちで、「大枚はたいて買ったワインがまずかった」とか、「期待度が大きかっただけに、その分期待はずれ」というケースがありますが、値段なりに良かったとしても声を大にして「旨かった」という人は少なく、稀にあるよくなかったケースの方がさも頻繁にあるかのように感じます。
それに、一流ホテルの接客を見てみて下さい。どれだけ至れり尽くせりかという点を。サーヴィスと一言でいっても、宿泊客がその時の気分に合わせて様々なレストランが選べたり、従業員の接客のレベルや向上心の高さ、ホテルの歴史、立地、建物に使われている材質や絵画、細やかな気遣いを感じさせる小さなこと、部屋のバスルームの雰囲気、調度品や部屋からの眺めなど言い尽くせないほどの配慮がなされています。だからこそ、それなりの値段がするわけです。しかし、一流ホテルほどの料金を取らないホテルで、一流ホテル同様のそういったサーヴィスをうけられると思いますか?料金が高くて実は質が悪かったというホテルが以前問題になりましたが、そういった例外を除けば、大体の場合質なりに料金がとられています。それが最初に申し上げた、1000円のワインに1万円のワインの味は出せないとした所以です。
それを高いというのは、人により収入や価値観が異なることやその時により用途が異なるからで、TPOに応じて選び、今回はただ泊まるだけで他に何も求めないのであれば、素泊まりで自分の気分が調度よい中で、予算のあう宿泊場所をセレクトすればいいだけの話です。ワインも同じで、ただ、今晩軽く飲みたいのには、それなりのものをセレクトし、とっておきの高級ワインを選ぶのは違うでしょう。ここぞという時には、またそれなりのものをセレクトすればいいわけですね。
それよりも「高いワインを買って飲んでいる私!!」ということを喜びに感じるケースの方がよっぽど多く遭遇します。高いワインを飲んでいると聞くと旨く感じるということです。私は銘柄がわからないまま利き酒をする「ブラインド・テイスティング」を個人的に頻繁にやります。ワインを勉強している人々や、真剣に向き合おうとするときに非常に有意義な試みで、プロには必要なことだと思います。

W:先入観でみちゃいますからね。

F:そのブラインド・テイスティングにおいて、やはり「ワインは値段によるんだな~」とつくづく思い知らされます。それがよくわかるのは、次のような時があるからです。一例としてドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ社(以下DRC)をブラインドで平行テイスティング(この場合は同年号の畑違い)すると、ロマネ・コンティが一番旨い、とか品質が高いという人をあまりみたことがありません。逆にすぐに楽しめる一番安い価格のエシェゾーの方がみな美味しいから、これをロマネ・コンティだろうと推測したが、全く正反対だったというケースです。「だったら、価格が安い方がいいのではないか?」というでしょう。しかし、ワインを楽しむにおいて、皆ラベルを見てそのワインが何かを知って飲んでいます。食事をしながらブランインド・テイスティングで飲むことが世の中にどのくらいの割合でいるでしょう?殆どの場合種明かしをした後飲み返すと、急にロマネ・コンティやラ・ターシュが一番美味しく感じてくるから不思議です。つまり「ワインを美味しく感じさせてくれるのは、味や香りだけではない」という側面です。当然、若いグランクリュを飲んで、開いてもいなければ、本領発揮していない状態で、抜栓のタイミングや、本人の経験の度合いで将来性を見抜ける人と見抜けない人がいるのかもしれないことなども人それぞれであるため、パターンは数え切れません。味の感じかたの細かいはなしをしているのではありません。素直に考えてみて、普通に飲んでいる常態というのは、ラベルを見て飲んでいるのです。私は心理学のスペシャリストではありませんので、そんなに専門的なことはいえませんが、そうした場面に遭遇するうちに、そう感じるようになってきました。
宣伝費に莫大な予算が投じられ、その分価格が上乗せされているケースもあるでしょう。ただ、コマーシャルのような情景を想像しながら、気分よく飲むという付加価値だってつくわけだし、よりワインを美味しく楽しめるツールだと考えれば、もしかしたら広告宣伝料の分も高くないのかも知れません。
ワイン以外の食物で考えても、どこの産地でとられた牛肉なのか?どの産地で誰がどのようにして生産した卵なのか?手を抜かず手間隙掛けてつくられ、氏素性がはっきりしている食物は決して安くないかもしれませんし、安く叩き売りされることもないでしょう。多少高くてもそちらを選択するという方は増えているわけです。
その他にも、「そのワインの説明がきちんと出来ないお店で多少安く売っているものを購入」するより、「それよりはやや高かったが、自分の信頼のおける店や店員から購入」したという安心料など、挙げればきりがありませんね。
どうでしょう?今述べたようなさまざまなことをひっくるめて、自分が思う“ワインは値段による”
人相学の権威の先生曰く「人は見掛けによる!」というのがありましたが、“ワインは値段による”意外と簡単なことなのかもしれませんよ。

W:なるほど。話は長かったですが(笑)、藤巻さんの言いたいことはよく分かりました。

F:なぜ、こんなにも長く“ワインは値段による”話をしたのかというと、今の店ではそんなに言われないですが、あまりにも多くの人々が、できるだけワインを安く買いたいから、売っているワインを闇雲に「高すぎる」と言う発言を今まで散々聞いてきたからです。以前派遣で全国の様々なワインショップにスポット的に立っていた時代があり、関東においては、殆どの主要百貨店のワインショップに立ったことがありますが、その経験では、どのショップにおいても総じて「お宅のワインの価格設定は高い」という方がおられました。価値観の問題だから「その方はそのように感じた」と言われればそれまでですが、割と良心的なショップでも、そうした意見はありました。東急は全国的に真ん中くらいの値付けだと思いますが、決まったパーセンテージしか乗せてもいませんし、リリース時のワインでは、今市場価格でそのワインがどれだけ高くなっているのかに関係なく一定の掛け率で販売しており、どんなに希少なものであっても抱合せ販売も殆どやりません。限定品をゲットするのにレストランやショップがどれだけ他のワインを買わないといけないかを考えると、限定品に定率よりも高値を付けたくなる気持ちや、抱き合わせ販売したくなる気持ちもわかります。うちは市場調査や定点観測する中でも全体的にみれば、そういったことを含めて考えても、それほど高いとは思えません、アベレージといったところでしょう。

W:逆に、多くのショップが東急の値付けを参考に決めているところもありますよね。あと、入荷するワインの内容とか、ワインの品質管理やスタッフの知識とかを考えると安いくらいだと思いますよ。

F:あとお客さんが素晴らしいですね。全国からいらしていただけますし、その道を究めている人も多いと思います。そういう人って何となくわかるでしょ。ことワインに対しても造詣が深いお客様も多いですので、お客様からも教わることが多いです。そうした人に対して接客するわけですから、スタッフも皆勉強熱心になりますよね。

W:すみません。話がそれましたか?

F:最近は便利になって、どこが一番安く売っているのかwebなどで容易に検索できるようになりました。その安い順に検索した時に、一番安く売っているものと比較し「お宅よりもっと安く売っているところがある」というのです。全てのワインを世界一安く売る店なんてないわけで、探せば店による値付けなんて、どこも高かったり安かったりですから、あるワインはこちらの方が安くても、もう一つのワイン別の店の方が安いっていうことはよくある話です。そうした“安く売っているから買うという”見方だけでショップを決めない方がいいというのは、先ほどから口がすっぱくなるほどいってきました。
当然、誰しも限られた予算の中で購入しているわけですから、安いに越したことありません。しかし、そういう人々のいうことにレストランやワインショップがワインを安くし、所謂、“安売り合戦”に走ったとしたら、電気製品のようなことになってしまいます。「隣の店ではいくらで売っていた、競争に勝つ為にそれより値を下げる」みたいな。この“安売り合戦”というのは好きになれません。もし闇雲にただ安く売ったとしたら、今の流通の仕組みとかがこのままであれば、その安くした分というのは、ワインに携わる人達の給料が安くなるということにつながります。ご自分のやっている仕事やその業界のことに置き換えてみて欲しいんです。お客さんの要望に答え、その言いなりのまま商品を安く売ってはみたが、その分、自分たちへの実入りが減るだけで、同業他社も競争して安く売り出し、業界のキャパは限られている状況だとすれば、給料が安い分頑張りたい気持ちも減り、業界の全体が苦しくなり、更には、徐々に自分たちの給料がへり、生活が苦しくなり、家族もいるのに、とか、家賃やローンを払わなければならないのに、というふうになり、いずれは別の仕事につかなければならなくなります。ワインの業界に置き換えれば、好きでこの仕事についたのに生活ができないのであれば、ワインの業界では生きていけないから優秀な人材も離れていくことになります。その前に最初から優秀な人材は来ないでしょうね。ワイン業界の人の給料はそんな高くないわけですが、一般にワインを嗜むような愛好家の方々の給料ほど高くないのは、容易に察しがつくでしょう?

W:ワイン業界、給料も安いですしね。

F:これ以上給料がさがってしまったら(苦笑)という感じの人は多いはずです。お花屋さんやケーキ屋さん、料理人などを見て下さい。皆それぞれ「花」「ケーキ」「料理」が好きでその仕事につき、フレンチの料理人志望であれば、フランスのレストランで修行したいため「ただでもいいから働かせて欲しい」といったケースも事実あったりします。そういった、好きで就く人が多い業界や仕事って足元を見られがちで、安くても一生懸命に働いてくれるから、一部の成功している人を除いて給料は高くないでしょう。ワインも同じで、好きでこの業界に入ってくる人も多く、その人達も決して高い給料をもらっているとは思えません。それなのに、更にワインが安く買いたいから、「もっとワインの価格を下げるべきだ」という消費者が多いのであれば、ワインの業界自体がそれほどよい状態にはなくなると思います。「ワインの業界が衰退するのは残念だが、自分には関係なく、安く買えた方がいい」というかもしれません。しかし、最終的には本当によいものが消費者の元に届くこともなくなり、結果、消費者自身よい思いができなくなってしまう、と思うのです。今後その仕組みをかえてゆければ話は違ってくると思いますが・・・。
安く買いたいのはわかるけど、結果的にワインが好きなのであれば、また、美味しいワインを飲みたければ、「出来るだけ安く飲みたい」というケチな考えはやめた方がよいと思ってしまいますね!!

W:適正価格って難しいですよね。個人的には、もう少し販売店が利益をとらないと業界的には厳しいと思っています。
では、その価格に影響をおよぼす人物、ワイン評論家についてはどうお考えですか?

F:自分は必要な存在だと思います。
何か買い物をする時のことを考えてみてください。例えばテレビを買うとしましょう。電気屋さんに行って色々なテレビが展示されており、どのような大きさで、画質がどの程度で、機能や操作性はどんな感じか、といったことを知り、その上で「この価格なら買ってもいいかな」という判断にいきつくわけで、大方の必要な部分を購入前に知ることができます。それに対してワインは、購入前にその味わいや香りを知ることができません。つまり「買って開けてみるまで分からない」という珍しい代物ですし、しかもそれが安くない。安めのワインであれば、試飲販売をやっていることはありますが、高級品を試飲販売することはあまりないといっていいでしょう。なので、飲んだ事のある人の意見を参考にすることが必要になってきます。作柄は毎年異なるため、前年の銘柄とは味わいが違うわけで、造り手のスタイルが大幅にかわっていなければ、昨年と近いかもしれないという判断材料にもなり得ますが、やはり飲んでみるまでわかりません。もし好みでなかったら後悔するかもしれないわけで、それが高額品となれば尚更です。ラベルに記載してあることでしか判断できなく、その情報以上に細かな味の雰囲気を知りたい場合は、やはり評論家など、既に飲んでいる人の意見が必要になってきます。おまけにそうした論評には飲み頃まで書いてあるのですから。ワインの味わいを飲んでいない人にもわかるように説明することは、正直いってできないと思います。こちらが香りや味の特徴を出来るだけ解かり易く言っているつもりでも、相手は別の捉え方をしているかもしれず、実際にちゃんと伝わっているとは限りませんから。それぞれの尺度や感じ方にも相当な違いがありますし。では、ワインの説明は必要ないかというと、全く何の説明もなく、沢山あるワインの中からその一本を選択することもできません。なにかの理由があったわけでしょう。そこに、説明札を読むとか、店員、ソムリエなどが直接それについて説明をする中で、探りながら、少しでも適しているのではないかというものに近づけてゆくことはできるかもしれません。それには一回だけでなく、何回か通っていただき、先日選んだワインの感想を聞くうちに徐々に近づけてゆく方法がお薦めです。それと同様に、評論家など既に飲んでいる人の意見は、消費者の購入に必要な判断材料として有効であるだけでなく、ワインを扱う、仕入れるなどの場でも、大変重要な存在となります。勿論、各評論家の趣味・好み・くせみたいなものがあるので、知りつつ読めば、そうそう外さないはずです。「人が造ったものに、文句をつける人ってどうなの?」と評論家のことを言うむきもみます。確かに、私も「言うだけの人は楽でいい」と思うことはあります。論評の影響で、トロフィー的ワインばかりを狙う、いわゆる「トロフィーハンター」みたいな人が存在するのも事実だと思います。でも、音楽・絵画・文学それから映画などにだって評論家はいます。それを創造する人というのと、その創造したものをきちんと観ることができる人というのがいて、醸造学をはじめとして、場合によってはマーケティングなど、かなり専門的な勉強をして、豊富な経験の上にたった人が客観的に評論をしています。恐らくどの世界でも必要な存在だと思っています。

W:ロバート・パーカーさんについてお伺いできますか?

F:ロバート・パーカーさんの名前は、ワイン評論家においてまず筆頭に挙げられる名前ですよね。価格や、多方面への影響力という意味でも。個人的にご本人の意見は好きです。 様々な論評がある中で、支持され、影響力を持っているのには、信頼に足るだけのことがあったからです。広告を掲載していないことから、外部からのいらぬ影響を受けず自分の物差しで書いている点で、評価基準がはっきりしていてわかり易いのも理由の一つかと。点数表示などが意見のわかれるところですね。彼が有名になったきっかけなど、パーカー氏について書いた本まで出ていますよね。
プロ同士ならいざ知らず、先ほど言ったように、専門用語を並べて味わいの表現をしても、飲みなれていない人に対しては、そのワインの雰囲気を伝えるのは至難の業、というかなんとなくは伝わるのかも知れないが、正直飲まずして「この味か」と思わせるのは不可能ですが、点数で表示されていれば一つの目安にもなります。ただただ、味や香りの表現とか、造り方、歴史が書いてあっても、購入意欲の決め手にならない場合があります。それを分かりやすくさせるために点数は有効だと思っています。

W:では、藤巻さんは点数をつけることに賛成?

F:「目安にはなるけど、それで全ては語れない」ってとこじゃないですか。「藤巻さんはご自分で点数をつけないのですか?」といわれることがあります。ちょっと筋違いの質問かな?っと。自分はそんな立場でもありませんしね~。頼まれて品評会でジャッジさせていただいた時などには20点評価の採点をしたこともありました。点数をつけるには一つの割り切りが必要だし、ナンセンスとも思え、なんともいえないところです。仕事で仕方ない状況ではやるかもしれず、個人的にはワインに点はつけたくないですね。ただ、消費者の目安になるという意味では有効で、売り口上になると思っているのと、これは「すぐに売り切れるぞ」とか「高くなるぞ」とか「話題になるぞ」と、ある程度想像がつきます。「このワインはパーカー100点のワインですよ!」っていうことだって、宣伝文句で使うことだってありますよ。皆がうまく有効利用すればいいのだと思っていますけど。ただ、逆にその点数ばっかりが目立ってますね。もっとどれだけのことがあの冊子に書かれているか、という点はあまり語られないのが残念ですね。パーカー氏自身も点数でなくその内容を読んで欲しいと語っているわけですから。その点数の神通力も、今は全盛期ほどではなくなってきてるんじゃないんですかね。以前、高得点のワインと、またそうでないワインを色々飲み比べ、点数というものをみた時代もありましたが、高得点ワインに悪いものはないが、低得点ワインだから悪いというものばかりとは思いませんでした。
今のようなことを言っていると、周囲から「え、藤巻さんはパーカーが好きなんですか?信じられない!」と言われることがあります。「はい、好きですよ」と答えますけど、「嫌ってない」という意味で。でも何と答えたら良いのか、そういう質問はかなり困りますね。その人間性についてなのか、点数制度についてなのか、意見や書いてある内容についてなのか、考え方についてなのか、でも多分、普通に「あなたに比べたら相当信頼している」というようなことはいえるかもしれません。
パーカー氏についてはホント賛否両論で、「ワインに点数などつけられるものか」「趣味が合わない」「以前から目をつけ好んで買っていた銘柄なのに、パーカーが高得点をつけたお陰で人気がでてすぐに売り切れるし価格が高騰し、縁の遠い存在になってしまった」といった批判的な意見の方が日本では圧倒的に多いと感じます。
それにしても、皆パーカー氏を好きでないと言いながら、かなりパーカー・ポイントについて詳しいです。皆何だかんだ言ってはいるけれど、気にしているというか、実は結構好きで、隠れファンだったりするのではないかと思っています。そんな感じで多くの方々が何らかの影響を受けていると思います。

W:パーカーを嫌いって言った方がカッコいいって向きはありますよね。

F:何かを批判することで、自分を高めようというスタイルなのか、パーカーと同等な立場と思っての発言か?どう考えての発言なのでしょうね~?また、批判する人の前で、「私はパーカーを気に入っています」とは言いにくいしね。また、どこに行ってもパーカーの名前が出てきて、あまのじゃくの人には「またパーカー?」みたいに耳ざわりなのかも。
で、それとは逆に、日本人でも絶大なる信頼をおいている人も勿論いらっしゃいます。こちらサイドが何を言っても、「でもパーカーはそうは言っていない」「パーカー・ポイントが低い」と聞く耳をもたないような方で、「このワインいいですよ、飲みましたか?」と言ったら「パーカー何点?」という感じで、その点が低いか高いかで全てを決める人です。こういった方は事実いらっしゃいます。自分としては、自称パーカー嫌いな方と好きな方を集めての話し合いの場があれば、是非見てみたいな~と思ってしまいます。どんな意見が飛び交うのか見てみたいですね。大変興味深いです。

W:ハハハ。

F:パーカー氏の論評に限らず、評論の影響で近年記憶が新しいのは、2001年のオルネライアのマセットが販売された時のことで、海外から、特にアメリカから、沢山の問い合わせをいただきました。高得点になったからで、マグナムをあるだけ欲しいとか、中には、日本在住のアメリカ人や日本人が「アメリカ在住の友人から、日本で売っている分を買って送って欲しいといわて来た」という場合もありました。やはり論評って影響力があると思いました。

W:すごいですね~。

F:個人的には先ほども申し上げたように、好きで、気にしてパーカー・オンラインやニュース・レター、冊子をみるようにしています。商売ですから、他の論評にも一通り目を通しますが。一概にパーカーといっても、世界中の生産地域を取上げますので、本人にも得手不得手があるでしょうし、客観的にみてローヌの評価のようにかなり信頼できると思える部分とその逆だと思う産地もあったり、低い点数を一方的につけられて大打撃、死活問題という生産者もいれば、その逆というパターン、当時高得点をつけたが、数年後の採点では極端に低い点をつけ、後で、「あれは間違いだった」と言ってみたり、その逆のパターンもあったりと、諸手を挙げて全ての意見に同感することはできません。90点と91点に何の違いがあるのか?90点と92点ではどう違うのか?数字なんかであらわせられるものではないのかも知れません。かなり強引というか、合理的な手法で割り切って考え、切り捨てるところは切り捨てるようにしていかないと、点はつけにくいですもんね。しかし、あれだけのことをやっているという点では敬服するのと、当然自分では出来ませんし、かなり凄いことをやっている人だと思っています。
高い点数をつけているから優れており、低い点数がつけられているから劣っているとも限らない節もあります。例えばパーカーに関しては、簡単に「高い点数は濃く、低い点数はその逆」といみる人もおり、その論に従えば、エレガントなのが好きであれば、あえて低い点のものを狙えばいいともいえます。
我々のショップでは点数評価をリストに掲載しています。そういったものは、資料として参考にし、自分なりに上手く便利に活用すればいいと思います。


W:アメリカらしいと言うんですかね。まあ、そうは言ってその点数を参考にしている世の中に人がごまんといて、パーカーさんが死んだらどうなるんですかね?

F:パーカー後の世界は危惧されていますね。全く書かなくなってしまった後のことですね。パーカー氏を批判にしていた人は次にどこを批判するのかなとも思います。商売にも影響が相当でると思いますから、パーカーさんにはいなくならないで欲いです。

W:業界的にパーカーに頼ってるところはありますからね。

F:他にも様々な論評が存在していてそれぞれに面白いのですが、まだまだ影響力はそこまでないです。自分たちもパーカーさんを頼りすぎているのは事実だと思います。他の論評についても話せば限がありません。でも、それはまた別の機会にでも。
勿論、そういった論評に一切目もくれず、ひたすらご自分の舌だけを信じて、ず~と飲み続けている凄いツワモノのワインラヴァーもいらっしゃいますので、点が全てとは限りませんしね。

W:最後に家で普段飲むワインは何ですか?

F:色々ありますが、家で日本のワインを飲むことが多いですね。中には、年一回まとめて注文する好きなワインがあって。それは相当気に入っています。

W:ちなみにそれは?

F:ボーペイサージュですね。美しい景色といった意味の。

W:昔、藤巻さんが『なんで日本のワイン業界は、ワイン消費者を増やそうとするだけで、フランスのようにワイン生産者を応援しないのかな?』
と言ってたじゃないですか。
すごいその話が印象に残ってるんですよね。
最近は日本のワインを応援しようという話もよく聞くようになりましたが、、

F:はい、どの国に行っても、そこがワインの名醸地だったら当然ですが、そうでなかったとしても、そこで造られる地元のワインが世界一だと思っているのが一般的なのに、日本のワインラヴァー&業界は地元のワインを飲まず、海外にばかり目を向けている人の割合が多いと思います。もっと地元日本のワインを飲んでもいいのだと思います。日常的にそれらを飲んでもらえるようになったら、とても素敵なのではないかと思うので、微力ながら普及活動をしているつもりでおりますが、まだまだ足りないです。売り場本位じゃなくて、生産者とともにやっていけるようなシステムみたいなものが確立されれば、様々な点で随分進歩するのではないかと考えているのですが・・・なかなか。

W:みな欧米のワインが好きですよね。

F:日本については東急本店では、年に2回くらいの割合で特集し、様々なワインをグラスでテイスティングできる企画を執り行っております。

W:有料テイスティングカウンターで国産も開けているんですね。
有料テイスティングカウンターのことをご存知ない方もいると思うので、詳しく教えてもらえますか?

F:はい。東急本店では、15年ほど前から毎週土日に「有料テイスティング」という名前で、バイザグラスを行なっており大変ご好評を得ています。
その特徴としては、
① 毎週テーマを決めていて、そのテーマの中で、こちらでセレクトしたワインを出します。毎週テーマは異なり、ボルドー、ブルゴーニュ、ピエモンテ、トスカーナ、カリフォルニアみたいな産地は勿論、世界中の様々なワインをお出しし、産地別、品種別などの切り口でカテゴリーごとに毎週行なっています。例えばブルゴーニュワイン特集だったら、新しく入荷したブルゴーニュを白ワイン5種類、赤ワイン15種類くらいの割合でセレクトし、その内容を予告宣伝しています。中には1本しか用意できないものもあり、人気があるものは、1時間くらいで売り切れてしまう場合もあります。
② 日本への割り当てが少ないレア物で、なかなかお目に掛かれない逸品
③ 高額でなかなか手が出ない逸品
④ 普段は新入荷のワイン、リリースしたての若いワインをテイスティング
⑤ 年に2回くらいの割合で、熟成したワインを特集する
⑥ ロブマイヤーのバレリーナシリーズ(オーストリア製ワイン専用グラス)で飲む
⑦ 料理はない→あくまでテイスティング目的→簡単なオードブルはあるが、おつまみ程度で、香りが強いものは出さない
⑧ 藤巻が企画しセレクトしたワインをサーヴィスする。たまにその道のスペシャリストをゲストとして呼び、カウンターに立ってもらうこともある。
⑨ レストランでグラスの飲むことを考えると相当安い
⑩ DMやメールマガジンで予告し、日程と内容を告知している。
という感じのものです。
お出しするワインは高いものばかりではないんですが、どうしても高い方に目が行き、安いものは目立たなくなりますね。その日によりかなり価格帯が異なりますが、グラス1杯で300円くらいからあり、高いものでこれまでに5万円くらいのものも今までにありました。グラス1杯で5万円のワインは極端な例ですが、1本が50万円するものでした。因みにこのワインはおかげさまで完売しました(笑)。あの一度は飲んでみたい憧れワインがかなり頻繁にグラスで開けられているカウンターで、その意味では世界的にみてもかなり凄いところをいっているでしょう。日本への割り当てが極めて少ない超希少なワインも開けたり、また、買ったばかりで1本しか持っていない大切な2005年の1本15万円もするシャトー・ムートンの味は、1本しか持っていなければ、その味を知りたくても絶対に想像の域をでず、特別な日に開けられるまでその味はわかりません。ワインは開けてしまったらおしまいだけど、同じものがグラスで出ていたら、ラッキーとしか言いようがありません。「なんと香しいんだろう、将来が益々楽しみ」とか、「いつ頃飲んだらより美味しいだろう」「なるほど、こんな味なのか!!」となり、自分の持っている1本を開けずにすみ、そのワインを体験することができます。2005年の5大シャトーの5本を、自宅でしかも1人で全部一斉に抜栓して飲む比べれば、それぞれの味の違いは把握できますが、5本もイッキに飲めませんし、第一もったいない。そんな時に東急本店の土日でそのワインが開いている日にいらっしゃれば、5大シャトーを一斉に比較テイスティングができたりする。しかも5本全部を開けることを考えれば、超格安で飲むことができます。愛好家からプロ、生産者まで様々な方々が、このカウンターを目的に日本全国からいらっしゃって、ワインを楽しまれ、体験され、様々な情報交換をされてかえられます。とてもセンセーショナルで、次から次に色々な意見が飛び交ったりしてワインラヴァーであれば相当面白いはずです。

W:そうですよね?あそこのテイスティングのスタイルを真似て、同じような事しているお店もありますが、結局あまり上手くいってないようですね。あと、最近はロブマイヤー使っているお店も増えているみたいですが、当時は東急本店のテイスティング・カウンターのほかにはロージェさんくらいしか使っている店ありませんでしたよね。いまでは東急の成功例をみて使い始めているお店も増えましたけど、元々は東急本店がほぼ最初という感じでしたよね。

F:はじめは普及していなくって、相当高価なグラスなのにどなたも知らず、皆にこのグラスの良さを、お1人お1人にその都度説明させていただいたのを思い出します。今ではその甲斐あって、かなり多くの理解者やファンが増えたと思います。No.5のタイプなんかは、「これはどこのテイスティングクラスですか?」という質問を今でもいただきます。またそれとは逆に、一度持っただけなのに、その素晴らしさを感じる方もいらっしゃいます。
そんなになかなか出会えないようなワインを良いグラスで、しかもいい状態で、安く飲めるというところは、世界中探したってそうはありませんからね。グラス一杯飲んだだけでそのワインの全てを語ることはできないでしょうが、一杯も飲んでなければ、グラス一杯飲んだ経験には及ばないでしょう。有料テイスティングカウンターのことをご存知の方はホントにラッキーと思います。
ちょっとした宣伝になっちゃいましたね(笑)

W:でもホントにいい試みだと思います。

F:有難うございます。グラスで飲んでも、それだけで全ては語れないと思いますが、一つの体験ができます。話はもとに戻して、そのカウンターで日本のワインを取上げることがあるのですが、数ヶ月前に行なった日本ワイン特集では、丸藤の大村さんのところのプティヴェルド100%のワインが今年リリース分は北畑の他に東白坂のキュヴェもあり、両方一緒に出してみたり、今やベリーAの代名詞ともなりつつあるシャトー酒折の井島さんのところのベリーAも、バレルとキュヴェイケガワを一緒に出したり、北海道、九州などのワインなど、色々面白いものを色々お出ししました。予告をだして反響が楽しみだったのですが、前評判をあまり聞かず、もしかして企画倒れかと思われましたが、蓋をあけてみたら、大成功!!常に満席状態で、お客様はみなとても楽しみにしておられ、わざわざ遠方から足を運んで下さった方もいらっしゃいました。
飲んだ感想も好評で、様々な反響をいただき、これからも続けてゆきたいと感じました。メディアの影響もあってか、段々と本格的な日本ワインは定着してきていると思え、嬉しく感じました。

W:そこにボーペイサージュあったんですか?

F:残念ながらありませんでした。

W:ボーペイサージュについて伺えますか?

F:ボーペイサージュは岡本さんという方が山梨県で造られているワインで、個人的にとても気に入っています。山梨県といっても勝沼ではなくもうちょっと山の方にいった、清里方面といった方が一般的でしょうか?津金という場所。初めて飲んだ時に虜になり、毎年飲み続けています。日々の日常で楽しめるワインですが、食事と共に飲みたいワインでもあり、生産者の心意気を感じるワインです。畑仕事の最中に押しかけていったこともあります。メルロなど色々なワインを造っておられます。ご本人の承諾なしに勝手に言っているので、このくらいにしておきます。今度持ってくるので一緒にのみますか?

W:よろしくお願いします。

F:はい。今度もってきましょう。
岡本さん本人は多分当たり前のこととして行なっているだけだと思うのですが、すごく熱心に極めて丁寧に造られている印象で、最近はプロの間では相当人気があります。

W:店頭に並んでいるんですか?

F:あいにく並んでいません。生産量が少ないし、すぐに売り切れるようなワインだから、割り当てられる本数が極端に少ないワインなので、扱いたくても扱えないですよね。希望通りに買えないこともしばしばです。広く普及したい気持ちもありますが、あまりにも知られ過ぎちゃうと、例によって自分の飲む分がなくなっちゃうから、このくらいにしておきます。でも充分有名なワインですけどね。岡本さんの知り合いでもあるようですが、さっきちょっと触れた小布施ワイナリーの曽我さんのワインでしたら、うちでは当初から扱いがあります。これも置いてあるお店が少ないからお問い合わせが多いです。

W:他にどんなワインがお好きですか?国産では。

F:勝沼近辺では、丸藤葡萄酒さん、中央葡萄酒さん、メルシャンさん、池田さん、ダイヤモンドさん、旭洋酒さん、機山洋酒さんなどは、やっぱり好きです。あと、山梨や長野に大勢の優れた生産者がおられるのは勿論ですが、それ以外にも、九州から北海道まで全国には志の高い生産者とか面白い試みをする生産者がどんどん現れてきて面白いです。宮崎の都農ワイナリーさんなんかは、例えブドウ栽培に最適な環境でなかったとしても、手を掛けて造れば、あれだけのいい品質のものができるということを証明している感じです。「フードマイレージ」とか「CO2削減」のことも取上げられていますけど、その視点でみれば、燃料を沢山使って船や飛行機でないと運べないような、遠い国で造られたワインより、国内のワインを飲んだ方がいいでしょう。そういった意味でも今後より一層注目といえます。

W:ワインナビでもいつか国産ワインの特集もしたいですね。

F:では、次のインタヴューは日本のワイン生産者の方を誰かご紹介しましょうか?

W:それは嬉しいですね。
誰ですか?

F:今はまだ内緒にしておきましょう。

W:楽しみです。では今日はありがとございました。



藤巻 暁(ふじまき・あきら)氏
1966年生まれ。
日本ソムリエ認定 シニア・ソムリエ WSET(r) アドヴァンスト・サーティフィケイト ワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」講師。
美術大学在学中に美術の勉強で渡仏しワインと出会う。以降、1989年アカデミー・デュ・ヴァンの門をたたき、複数のワインバー、レストラン、ワインショップにおいてワインのサーヴィス・セレクトに従事した後、ワイン・オークションサイトを主宰。
現在、日本有数の品揃えを誇るワインショップ東急百貨店本店和洋酒売場THE WINEにて就業しながら、雑誌・メディアにおける執筆、酒販店のコンサルティング・講演等、ワインの普及販売に携わっている。

【インタビュアー】 石井邦生(いしい・くにお)
叔父の酒屋を手伝ううちにワインに惹かれ、いつしか本気になってワインアドバイザーの資格を取得。調子に乗り、さらにワインショップやレストランで経験を積む。
このころにはワインの魅力にずっぽりはまり、この道で生きていくぞと決意。東急百貨店町田店ワイン売り場の専属スタッフを経てフリーになり、都内の百貨店にて販売に携わる。2006年には渋谷にワインバー『 Cabotte 』をオープン。


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