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F・・・藤巻 暁氏
W・・・wine-navi インタビュアー 石井

【第3話】
W:藤巻さんは全国に顧客を抱えていて、常に藤巻さんを慕って多くの方々が東急本店にご来店されますが、その人気の秘訣はなんだと、ご自分では思いますか?

F:はい、それはお客様に“お土産”を渡しているからだと思います。これに尽きるといっても過言ではありません。ただし“お土産”とは、“温泉饅頭”のことを言っているのではありません。 私は、たまに頼まれて「企業の新人教育セミナー」みたいなものに講師として呼ばれて、話をすることがあるのですが、この話は、そんな時によく話すことです。ちょっと聞いてください。
例えば、学校を出て会社に入社して間もない社員が、最初は先輩と営業に廻っていたとしても、いずれは一人で外廻りをしなければいけなくなります。そんな時、お客さんのところに訪れて、ひたすら「うちの商品を買って下さい、よろしくお願いします!!」の一点張りでアプローチしても、それだけでは誰も買ってはくれません。なぜなら同じようにアプローチしてくる同業社は他にも沢山いて、お客さんからみたらワン・オブ・ゼム、沢山いる人のうちの一人でしかないからです。熱意をこめて買って欲しい気持ちを前面に表し「お願いします!!」という気持ちを持ち続ける事も勿論大切で、相手にその熱意が伝わり最終的に契約に結びつく可能性も稀にあるでしょう。しかし、通用するのは最初のうちだけ、次からそうはいきません。 私が申しあげている“お土産”とは、今朝読んだ新聞にお客さんに関係する記事が載っていたとしたら、その新聞の切り抜きをそのお客さんにお渡しするのも一つの“お土産”だし、何かの最新情報や、お客さんの同業他社の動向でもいいし、その業界の今起こっている噂話でもよく、そのお客さんの好きなことや趣味が判れば、それについての事柄でもよいのですが、そういった様々なことをお話したり、プリントやまとめてファイルしたものをお見せすることだって“お土産”で、なにも物質である必要はなく、そういった「何かをお渡しする」ことを言っています。なので、「何かをお渡しする」という意味では、“温泉饅頭”でもいいとは思います。が、そればかりだと能がないみたいにおもわれるかも知れないですね。また“温泉饅頭”ですか?っていう感じで・・・
そうやって「何かをお渡しする」うちに、お客さんにとって何かメリットを感じてくれさえすれば、もう一度会ってくれるかも知れず、いずれは自分のファンになってくれるかも知れません。更には、お客さんの方から呼んでくれるまでの関係を築けるかも知れません。そしてワン・オブ・ゼムでなくなるのです。
自分の話に置き換えると、そういったことをお店でやっています。せっかく駅から離れた立地の場所(東急本店)までいらしていただくお客様に対して、ご来店時にはなかったものを持ち買っていただきたいと思い、今言ったことに心がけています。

W:ほー、なるほど。それで、ファンの心をつかんで離さないんですね!?
では、そのために何か普段から心がけていることはありますか?

F:はい、あります。それは“いつでも、どこでもアンテナを張り巡らせておくこと”です。 よく例に挙げるんですが、いつだったか、友達に薦めてもらった本に書いてあって印象に残ったんです。それは「子供ができた途端にベビーカーの多さに気がついた」とか「自動車で、赤のボルボに乗り換えたくなったら、街ですれ違う車の中で、その車がとても目に入るようになった」というものです。つまり、意識していることで目につくものや、受ける印象が違うのだと思うのです。今考えていることや気になっていることって、関連する内容がTVや雑誌、街の広告などにあれば、目に飛び込んできやすいですが、ただ漠然と意識なく日々過ごしていたのでは、よほどでない限り飛び込んでくることはないでしょう。私の場合、常にそうしたマインドでいるように心がけていることによって、自分やお客様にとって「有益な情報」や「喜んでもらえそうなこと」、「面白いこと」を発見し、会話のなかで使います。ゲットした様々なことを、自分なりに消化、工夫して表現し、自分の言葉や、やり方、自分なりの味わいをもって相手にわかるように伝えます。それによりお客様にとってメリットを感じていただき「もう一度彼と話しがしたい」とか「東急に行けば何か良いことがあるような気がする」というワクワク感をいだいていただけ、わざわざ遠方からご来店いただけるようになり、ファンになっていただけます。会話の中の一言でも「お薦めしたワインが美味しかった」でもよいし、「最近飲んだ何年のあのワインが良かった」などの話し、「髪形や、つけている香水の香りをほめられた」でも、自分が差し上げた何かに少しでも「良い気分になった」とか「得した」と感じ、持ち帰っていただけたら、もう一度会っていただけるかもしれません。更にはそうした中でも特に、もし“感動”さえ味わっていただけたお客様がいたとしたならば、何回でも足を運び続けて下さり、惜しみなく買い物をして下さいます。
またそれは、あらゆるサーヴィス業に共通していることだと思います。

W:人気者ですもんね~、藤巻さんは。東急に行くと痛感しますよ!

F:ハハハ

W:藤巻さんは東急本店でワインをサーヴィス・販売をされながら、アカデミー・デュ・ヴァン等での講師をはじめ、セミナー、執筆、レストランでのイベント企画、若手の育成などもされているじゃないですか?
ワイン業界の中で、今までになかった、これからの新たなるあり方というか、スタイルをご自身で開拓し、構築されているように思えるのですが、ワインに携わる若い方々に何かアドバイスはありますか?

F:自分は今42歳で、20年くらいワインと関わってまいりましたが、それでもまだ勉強中の身で、他にもっと凄い方々が沢山おられるので、あんまり偉そうなことは言えません。自分のスタンスといいますか、やってきたことをお話することはできます。

まず、世の中に沢山の種類のお酒があり、レストランで扱っている飲料だけとってみてもワインだけではありません。レストランにいる以上、そうした飲料には一通り通じていなければなりません。今は飲食店ではなく酒販店にいるわけですから、より一層様々なお酒に精通していなかればならないのは当然ですね。しかし、その中でも自分はワインに特化して勉強してきました。

そんなワインに対する接し方は、自分の場合こんな感じです。
1つに、自分は、ワインについては様々な接し方・飲み方をしたいと思っています。
それはどういうことかというと、具体的には、
常識的に自分が考えうる、欲張りともいえる、あらゆる接し方・飲み方をしたいということです。
そんなことをしたからといって、何か仕事においてメリットがあるのか?と思うかもしれませんが、ちょっと聞いて下さい。
それは、友人たちとワイワイ飲むのもよし、家族で飲むとか、家で一人で飲むとか、ワインバーに行って飲むとか、ジャーナリストやプロ同士で飲むとか、自分が関わったワインを飲む、自分主催のワインの会も行なっていますし、友人・知人の主催するワインの会にも出来うる限り足を運びますし、インポーターや、関係機関が行なうテイスティングの会にも足しげく通います。
「な~んだ、そんなことくらい自分でもやっているし簡単」っておっしゃるかも知れません。でも、私からみて、実際にやっている人ってどのくらいいるのかなって。
ご招待でワイナリー見学に行くだけでなく、実費で、世界中の様々なワイン産地に出向いて、ワイナリーを訪れ、生産者から話しを聞きながらテイスティングしたりというのも、先ほどからお話している通り、行なっております。
それらの味わいを記憶しながら、このワインが健全なのか、料理との合わせ、供出温度など、自分ならどのようにお薦めしサーヴィスするのか、というようなことを考えながらテイスティングしたり、時には、何にも考えずにただ楽しむこともありますし、水平や垂直を含むブラインド・テイスティングも頻繁に行ないます。こんなことを、20年以上ず~と長く行なっています。また、一本をじっくりと時間を掛けて飲むことも楽しみますし、価格も安いものから高いものまで訳隔てなく飲みますし、産地もフランスとかイタリアとかと決め付けずに、様々なワインを飲みます。例えばグルジア、モルドバ、チェコ、ブルガリア、スロベニアなんていうのも飲みますし、メキシコ、ブラジルとか、台湾、中国、インドなどのアジアのワインも、良いと聞けば飲んだりします。

同じものでも、ボトルによる違いもあれば、グラス1杯だけ飲んだ時の印象、時間をかけて1本を飲んだ時の印象、グラスの形等による違いや、スチュエーションによる違い、経年変化のよる違い、年号による違いなど、あげれば切がありません。一回飲んだだけで、そのワインの良し悪しを決めることもしません。
ワイン生産地において訳隔てなく飲みます。今日はブルゴーニュの話題が中心ですが、それだけでなく、世界中の様々な産地のワインについて、昔の出来事から、最新情報まで、“常にアンテナを張り巡らせている”という状況です。それをやっていても、全く疲れるとか、飽きるということはありません。だからこそ、ボルドーに詳しい人、ブルゴーニュに詳しい人、イタリアに詳しい人っていうスペシャリストの方々はいますし、それを極めるのは並大抵のことではありませんが、自分の場合、ブルゴーニュだけ詳しいだけでは仕事にならないので、他の産地もブルゴーニュ同様好きですし、同様に詳しいと思います。日本のワイナリーには頻繁に足を運びますし、昨年はニュージーランドのワイン産地を視察に行き約40以上のワイナリーを観て来ました。そこで、今回のブルゴーニュ同様に様々なことを見聞きし体験してまいりました。

W:確かに、ブルゴーニュしか詳しくない人やイタリア専門みたいな方はいらしても、藤巻さんのように、他のどの産地についても、その産地のマニアの方に話しができるくらい詳しい人ってみないですよね~。

F:多分、今まで口にしたワインの数は何万種類にもおよび、もはや数え切れないですし、手前味噌になりますが、恐らく、日本で最も数を飲んでいる人間の1人であると自負しています。それでも、到底全てのワインを飲むことはできないですし、自分よりも経験の豊富な方々もいらっしゃいます。そのくらいに大変奥が深く、幅の広いものだと思います。それだけに、ワインというのは自分にとって、一生追い続けても、尽きることのない深さと広さがあると感じています。また、それにだけに“一生追い続けるに値するテーマ”でもあると思います。だからこそ、そういった飲み方は全部やってみたいっていう飽くなき欲望を感じ続けています。

夏に昼間っから、風呂に入りながら冷やした泡を飲んだりとか、ポカポカ陽気の晴れた休日に屋外で白ワインを飲んでみたり、ってことが、とても思い出に残ったりするんです。お客様に「そんな飲み方をして楽しかった、面白かった」という話しができるのは、経験していなければ言えないことです。
多くの方が、ワインについての概略を、または相対的に知りたいと思っており、それを知るための早道を探そうとしているように見えますが、自分が思うにワインを追求するにおいて“早道はない”と思っています。なので、よく私のところに来て、『その早道を教えて欲しい』と言ってくる方がおられますが、はっきり「“早道はない”と思う」と答えます。勿論、ワインスクールなどに通えば、多少早道なのかも知れませんが、結局いかに様々なものを体験し、経験し、考えて、感じて、行なってきたかが全てだと思うからです。専門誌などを沢山読まれている、知識はあるが経験の乏しいと思える方が多い中、逆に知識はないが、経験の豊富な方に出会うと、新鮮に感じると共に、本当にすごいな~と感心してしまったりもします。
自分の場合は、やはり、そうして沢山を経験してきたからこそ、今があるのかなーって、振り返って改めて思います。

2つ目に、自分ひとりではここまでは来られなかったとも思います。今でも、東急本店という凄いワインショップが自分を生かす上で必要不可欠であり、仕事において周りのスタッフの助けなくしては何もできません。また色々な方々と知り合いになり、その方々がまた新たな良いお客様をご紹介して下さいます。それも、先ほどお話した、様々な接し方・飲み方をしてきたからこそ、様々な人と出会えたわけで、双方はリンクしています。

3つ目に、人と同じ事をやっていては伸びないとも思います。語弊がないようにしたいのですが、これからやろうとしていることなどが、既に誰かがやっている事と同じでは、今一つだと思います。最初は人の真似でも、少なくともそのうち自分なりの工夫やアレンジを加えないと。
レストランの先輩方は殆どが厳しくって、先輩から叩かれたり蹴られながらやっているわけですが、自分が上に立った時に、下にも自分がされてきた同じことをやったりする傾向があります。また、それと同じようにレストランの接客の方法なんかも先輩の真似をしたりして、「フレンチとはこういうものだ」みたいな変に固執した考えをそのまま継承してしまう傾向もあります。一部の人達は、当時“お客さんを下に見る”というスタイルが少なからずあったと思います。ただでさえ、「ソムリエは威張ってる」とか、「ニヒルでツンケンしてる」といったイメージが付きまとっているのに、未だにそんな考えでいたら、余計にじみ出てきて、お客様に威圧感を与えてしまい、食事中くつろげないでしょうし、もう一度その店に来たいとは思わないでしょう。昔のレストランの乗りをそのまんま受け継いでいる、乗り遅れた人間になってしまっては、伸びないと思います。自分は、そんなソムリエのイメージを拭い去り、今までにない、それとは違うスタイルでやっていきたいと思ったから、そこに優位性があったのだと思います。そしてそれがいいと思う方が廻りに沢山いらしていただいたからだとも思います。




藤巻 暁(ふじまき・あきら)氏
1966年生まれ。
日本ソムリエ認定 シニア・ソムリエ WSET(r) アドヴァンスト・サーティフィケイト ワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」講師。
美術大学在学中に美術の勉強で渡仏しワインと出会う。以降、1989年アカデミー・デュ・ヴァンの門をたたき、複数のワインバー、レストラン、ワインショップにおいてワインのサーヴィス・セレクトに従事した後、ワイン・オークションサイトを主宰。
現在、日本有数の品揃えを誇るワインショップ東急百貨店本店和洋酒売場THE WINEにて就業しながら、雑誌・メディアにおける執筆、酒販店のコンサルティング・講演等、ワインの普及販売に携わっている。

【インタビュアー】 石井邦生(いしい・くにお)
叔父の酒屋を手伝ううちにワインに惹かれ、いつしか本気になってワインアドバイザーの資格を取得。調子に乗り、さらにワインショップやレストランで経験を積む。
このころにはワインの魅力にずっぽりはまり、この道で生きていくぞと決意。東急百貨店町田店ワイン売り場の専属スタッフを経てフリーになり、都内の百貨店にて販売に携わる。2006年には渋谷にワインバー『 Cabotte 』をオープン。


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