
F・・・藤巻 暁氏
W・・・wine-navi インタビュアー 石井
【第1話】
W:先月、フランスに行かれたんですよね?まずはその辺の話から伺いたいと思います。
どのくらい行かれたんですか?
F:東急本店が改装の間の1ヶ月弱行って参りました。それってなかなか自分でも休めないんですよ。周りも、普段はあんまり休んでもらっちゃ困るって言われるのに、今回は『休んでもいいですよ』って言うんですよ。つまり休めってこと。笑
いつもと違うじゃない?って思ったんですけどね。そういうことだったら『思い切って行ってみようか!』っていう感じで行ってまいりました。
W:どちらに行かれたんですか?
F:ブルゴーニュに3週間ちょっと滞在してまいりました。通常、旅行っていうと、フランスの場合、殆どがパリって感じで、時間があったらそれ以外も観るというのが一般的と思うのですが、私は生産者廻りしかしないので、最近、パリは通過するだけです。一度に色々と観たいため、ボルドー、ブルゴーニュ、シャンパーニュなど色々と廻りがちですが、自分の場合は出来るだけ一箇所に搾って滞在することにしており、今回のフランス訪問は、ずーとブルゴーニュだけでした。
W:いいなー、憧れですよ!どちらに泊ってたんですか?
F:現地の友達のところに長く居候させていただいておりました。たまたま彼もいい時期だったので、3週間ずーと行動を共にしてもらい、ちょっとローヌにも遠出したのですが、殆どはブルゴーニュで、南はボージョレから北はディジョンまで行き、合計で約40の生産者を廻らせていただきました。
W:どこの生産者が印象に残りましたか?
F:今回の一番の収穫はドニ・モルテでした。今、ドメーヌ・ドニ・モルテは、亡くなったドニ・モルテ氏の息子さん、アルノー・モルテ氏が主になってやっているドメーヌです。多くの人はドニ・モルテ氏が亡くなったことで、この先もうダメなのではいのか?!と疑心暗鬼の状態だと思います。そして、私もその辺はどうなのか、という気はしていたんですよ。でも実際に行ってみて、話も聞いてみたのですが、取り越し苦労といいますか、それどころか逆に“最高”という印象でした!!そして今後さらなる飛躍が出来るとさえ思えるぐらいの良さが感じられました。
W:息子さん、確か若かったですよね?
F:確かに若いですよ、まだ20代だったかと。一国一城の主と考えると、一見頼りないように思えるのですが、実際に話を聞くと、考え方も意外としっかりしていますし、「お父さんの目指していたスタイルがいいと思うから、自分もそのスタイルを目指したい」と言っていました。
何より彼がすごいと感じたのは、何といっても“畑仕事に最も重点を置いている”という事だと思いました。今回の滞在は2~3月にかけてですので剪定の時期でした。自分は、畑仕事の専門家の人たちに比べ、その細部までは目が行かないとしても、それなりの違いは分かると思っており、そんな自分の目からみて、ドニ・モルテの畑はひと味違うと思いました。
まず、ブルゴーニュの畑は、畝一本隔てただけで、隣の生産者が各々の考え方に基づく仕立て方で畑仕事を行っています。もちろん、どの生産地域でも同様なんですが、ブルゴーニュの場合より分かりやすく、生産者の異なる畝と畝の間に立っていると、明らかにその違いが見て取れます。杭の打ち方一つとっても異なりますし、畑を耕すか耕さないか、芽の残し方等々、そこで、いかなる作業を行っているかというのは、極めて重要な点といえます。今回行った時期は、葉が生い茂っていないので、仕立ての部分などをみるにはわかりやすかったわけですが、その時期にやるべきことをどの程度やっているか、それ以上の何かを追求しているのかどうかという事など、様々な視点でみることができましした。生産者と共に畑を歩き、何故その作業が必要なのか、また必要でないのかなどの話を聞きくと面白いですね。
ドニ・モルテの畑でよいと思ったのは第一に、仕事が丁寧であるという点でした。
一畝となりの人の畑とは、素人目にみても一目瞭然、そこに明らかな違いがあり、それが、シャンベルタンであっても、ラヴォー・サン・ジャックであっても、その他のドニ・モルテ所有の畑であっても、随所にそう感じさせられました。蕎麦屋さんへ食べに行った時に、「ここは仕事が丁寧だな」って思ったりすることがありますが、まぁ、見ているわけじゃないんですけどね。それは確かに味わいに出てくるものだと思います。多分、ワインの味わいにも、そういった“仕事ぶり”みたいなものは自ずとにじみ出てくるのではないかと思うんです。
今回は、先ほどお話した居候先というのが、栽培の専門家として知られたスペシャリストだったのですが、彼と一緒に解説付きで畑を歩き、細部にわたり仕立ての専門的視点から畑をみて廻った為、より一層その違いを確認することができました。
例に挙げれば、ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティとドメーヌ・ルロワは別格に畑仕事を極めているとして、この二つに次ぐぐらい、ドニ・モルテの畑仕事を極めていると感じさせられました。
日本で人気のある生産者でも、実際に畑をみるとあれ?っていう笑えない話がありますけど(笑)、そういう生産者とは一線を引きたいとも思いました。自分からみて、畑仕事にそこまで手を掛けていないと思える生産者たちでも、『私共は畑の仕事が最も大事だと考えており、畑ごとの個性を重視しており、常にテロワールを意識しています』とかって言うぐらい、畑仕事が重要だということは、皆が頭では知っていることです。それで殆どが決まるとも、人によっては畑仕事で9割が決まると言いますからね。その畑仕事を極めているドニ・モルテのワインは、変わらぬ凄さを維持し続けていると思います。
他にもドニ・モルテの畑仕事に関してすごいと思ったのは、休日も畑仕事していたことです。日本人であれば、仕事が終わらないので休日出勤はありえます。また、仕事が遅いので休日出勤なんてこともあるでしょうが、フランスは休日にきちんと休みますので、余程のことがないかぎり日曜に働いたりしませんよね。しかし、土日でもドニ・モルテの畑には人が働いていました。当然、畑に出ることを社員に強要していることはないみたいですしね。
その時期、通常のブルゴーニュの気温は氷点下であることも少なくないのに対し、今年はその時期とても暖かく、自分がブルゴーニュに訪れた当日の気温が19℃で、次の日がなんと22℃という具合でした。こう暑いと樹液が出始めたりすることがあるので、より畑に出なければならないはずなのに、見たところ休日の畑には他に誰もいな
いという状況でした。そのくらい日曜は働かないのが普通です。滞在中、休日にもいろんな畑に足を運んだのですが、畑に行くと、辺りを見渡しても他の生産者の畑では作業している姿はみえないけど、ドニ・モルテの所には毎回、誰かが仕事していました。畑作業が他の生産者より遅れているというわけでもなさそうなのに。
広いブルゴーニュの中では他にもそういう生産者は沢山いるでしょうし、私が行った時だけ、隣の畑の人はたまたま今帰ったばかりだったのかもしれませんので、みなが怠けているとは思いません。しかし、その中でも特にドニ・モルテは畑の作業を重視していると感じさせられましたので、こうして声を大にして言いたかったんです。
で、もう一つドニ・モルテのワインにとって大きいと思ったのは、ドミニクの存在です。
ドニ・モルテに今雇われている栽培家で、奥様が日本人。その奥様は日本のワインラヴァーの間では知られた方であり、美しいフランス語を話す素敵な方です。お宅にも何度かお邪魔したのですが、1人小さな娘さんと犬がいますね。ただ、ドミニクの自宅には沢山の日本人が訪れるため、私のことは覚えていないかも知れませんがね。
ドミニクも根っからの仕事人で、休みに関係なく畑に出ていまして、「畑にいる事こそ自分の生き方だ」と思っているような感じの人で、いつでも畑に出て働いていました。
例えばドミニクが勝手に畑に出ているとすると、アルノー・モルテが怒るんですよ。「何故声を掛けなかったんだ!」って、「俺も一緒に連れてけ!」ってね。笑
非常に手間の掛かる作業を、時間を惜しみなく使って、丁寧に行なっているという点で、今後もドニ・モルテに期待したいと思いました。
ここでは畑仕事にしか触れていませんが、テイスティングした数々のワインは勿論大変素晴らしいものでしたよ。
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藤巻 暁(ふじまき・あきら)氏
1966年生まれ。
日本ソムリエ認定 シニア・ソムリエ WSET(r) アドヴァンスト・サーティフィケイト ワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」講師。
美術大学在学中に美術の勉強で渡仏しワインと出会う。以降、1989年アカデミー・デュ・ヴァンの門をたたき、複数のワインバー、レストラン、ワインショップにおいてワインのサーヴィス・セレクトに従事した後、ワイン・オークションサイトを主宰。
現在、日本有数の品揃えを誇るワインショップ東急百貨店本店和洋酒売場THE WINEにて就業しながら、雑誌・メディアにおける執筆、酒販店のコンサルティング・講演等、ワインの普及販売に携わっている。
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【インタビュアー】 石井邦生(いしい・くにお)
叔父の酒屋を手伝ううちにワインに惹かれ、いつしか本気になってワインアドバイザーの資格を取得。調子に乗り、さらにワインショップやレストランで経験を積む。
このころにはワインの魅力にずっぽりはまり、この道で生きていくぞと決意。東急百貨店町田店ワイン売り場の専属スタッフを経てフリーになり、都内の百貨店にて販売に携わる。2006年には渋谷にワインバー『 Cabotte 』をオープン。 |
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