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U・・・上田巨樹氏
W・・・wine-navi インタビュアー 石井

【第2話】
W:新しい生産者を探すというお話についてですが、どこか注目してる場所とかはありますか?

U:ずばりモレです。モレ・サン・ドニ。元々個人的にもモレ好きなんです。今まで飲んで素直に美味しいな~と思ったのはなぜか決まってモレなんですよ。
あ、シャンボールはさすがに大好きですが、あんまりワインがないですし、高いですよね。

今なぜモレサンドニかと言いますと、なによりも、コート・ド・ニュイの主要な村の中ではモレだけに、意欲的な新しい造り手がいっぱい出てきてることです。
彼らは、モレならではの長所や美点を確信して、ホントに熱心に畑仕事に取り組んでおり、素晴らしいワインを造るようになってきました。
そのモレならではの美点というのは、きれいなミネラル分だそうですが、このミネラル分って、つまるところブルゴーニュの赤ワインの美味しさの極意ですよね。
今まで、「モレ=きれいなミネラル」って言われたことはなかったと思います。しかし彼らは口を揃えてそう言っている。
あと、ジュヴレやヴォーヌ・ロマネの生産者は隣人同士仲が悪かったり変な派閥みたいなのがとても多いですが、モレの新世代達は決まってみんな仲が良く、情報交換をしたり一緒に畑で汗を流しながら切磋琢磨しています。それと、はにかみ屋というか、とにかく真面目なヤツが多い。笑
どんな仕事もそうかもしれませんが、特にワイン造りは大自然が相手ですし、斜に構えてていい仕事ができるはずがないですよね。
これまで数千人の醸造家と会ってきましたが、ジャン・ミッシェル・ダイスしかり、フランソワーズ・ベデルしかり、素晴らしいワインを造る生産者は皆ド真面目です。
また、モレはいいヤツが多い。生真面目ではにかみ屋ですので一見とっつきにくいですが、話してみるとハートがすごく暖かい。
先日も、この秋以降に日本初登場となるモレのある生産者と割当を増やしてくれという交渉をしたのですが、 vous(あなた)でなく、tu(君、オマエ)でお互い呼び合うんなら増やしてあげる、みたいな感じで、この仕事をしてて良かったなぁと素直に思える時です。笑

もうひとつ、モレはほとんど歴史的な経緯だけの理由でこれまで不当に低く評価されてきたと私は思いますが、 そんな彼らの努力もあって、今日、現地で急速に再評価が進んでいます。
よく言われることですが、ひとつの村の中におけるグランクリュとプルミエクリュの面積の割合がニュイの4つの村の中で一番大きいそうですね。
クロ・ド・ヴージョは除きましょうね。笑 個人的にはクロヴジョもとても好きですが。
もともとすごいポテンシャルを持った地、プラス、意欲的な新世代の入魂の努力によって、極めてダイナミックに進化を遂げつつあるのがモレだと思います。
彼らが真剣に造るワインをご紹介し、美味しく楽しく飲んでいただくことこそが、彼らを応援し、支えることになります。

それと、なんといっても、モレは周りの村に比べて安い!

今年はモレにかなり力をいれて増やしていきます。ぜひその美味しさとコストパフォーマンスの高さにびっくりしていただきたいです。

繰り返しになりますが、現地におけるモレの見直しのダイナミズムは相当なものです。
半分冗談ですが、10年くらい経ったら、コート・ド・ニュイと言えばモレかシャンボール、みたいになっててもおかしくないかもしれませんよ。笑
真面目な話、世界を動かしてきたのは、つまるところ人間の情熱のエネルギーでしょう。

W:今年はモレが熱いと?

U:いろいろ入れますよ。ここは割と有名なところですがピエール・アミオもやります。
今までいろんなインポーターさんがちょっとずつやってましたけど、今年からうちが総代理店でがっちりやります。
ピエール・アミオはいいですよ。めちゃくちゃ美味しいです。
既にはじめた造り手の中では、レミ・ジャニアールは現地メディアに先んじて紹介できました。
扱いはじめた後に「ブルゴーニュ・オージュルデュイ」ですごく良く書かれました。
今は記念すべきファーストヴィンテージの2004を販売中で、5月から2005を発売開始します。

個人的にプロの方とか愛好家の方と話すと、「ここだけの話、実は、俺もモレが好き」という人がとても多いように感じるんですが、 一般的には「モレは人気のAOC」ってことにはなってないですよね。これってどういうことなんでしょうか。笑
ここだけの話、ってことは、他の人には俺がモレが好きだってことは内緒にしといてくれ、ってこと?笑 
モレが好きな方は、石井さんや私みたいに堂々とモレが好き、って言えばいいのに。笑
これまで、持ち込みのワイン会とかにモレを持って行くと、「ちっモレかよ」みたいに思われるんじゃないかと自主規制してたりした部分も大きいんですかね?笑
もう、お財布の中身自慢、レアもの自慢みたいなワイン会は相当恥ずかしいものになってて、純粋にワインを楽しめるような素敵なワイン会が増えているそうですが、 ワイン飲みの最大の醍醐味というか、ほんとうの腕の見せどころは、「この価格でこんなに美味しいの!」と感動できるワインを発掘し、紹介することではないでしょうか。
ホントにいつか、来るかもしれませんよ、「ちっヴォーヌ・ロマネかよ」みたいな時代が。笑
それにしても近隣の人気村と比べてもヴォーヌ・ロマネだけなんであんなに蔵出し価格が価格が上がってるのか、理解に苦しみます。

W:ブルゴーニュの古酒を扱われてたりしますが、あのあたりはどうなんでしょうか?

U:古酒については、生産者を全把握する過程で見つけました。
ブルゴーニュに関しては、どの生産者がどれだけ古酒を持ってるかというマッピングはほぼ完了しています。
ただ、それはインポーターのレベルで見つけられるものだけで、この他に、ベテランのクルティエとかでないと絶対見つけられない、現地流通における超ディープな部分の古酒はまだあるようです。いずれにせよブルゴーニュで蔵に古酒を持ってる生産者ってもうホントに少なくなっています。
かなり高いものはまだ結構ありますが、そういうのはあまりやりたくなくて、できるだけコストパフォーマンスが高いモノを選んでいます。
もちろん全部試飲してこれだったらOKと言うモノ以外は買わないです。
ただやっぱり古酒は特に嗜好品ですし、いろんな高い古酒を何十年と飲まれてきた方にとっては物足りないと思われるモノもあるかもしれませんが、まずはコストパフォーマンスを一番に考えて選んでいます。
高くて、本当にしびれるくらい旨い古酒もあるんですけどね~、なかなか販売が難しいんですよ。
価格に対しての古酒ならではの美味しさということに関しては自信があります。

W:ブルゴーニュの価格の上昇についてはどう見てますか?

U:エラいことになってますよね。
でも、例えば世界的なバブル大崩壊、みたいなことが起こらない限り、当面は上がり続けると思います。
06、07もあがるでしょう。ほとんどの生産者は05があまりにも偉大な年だということで04からかなり上げましたし、さすがに05より06を値上げするわけにはいかないと判断する生産者もいるかとは思います。
ただ、石油関係が上がっている影響で資材価格が上がってますよね。樽の値段はまだあまり上がってないようですが、ビン、コルク、ラベル、カートン、輸送費、諸々が相当値上がりしてますので、ワインの値段を据え置いても資材の価格上昇分だけは値上げせざるをえないという面はでてきています。
ビンの値段に関しては、ブルゴーニュもシャンパーニュもいろんな人が言ってますが、去年1年間で10%くらい値上がりしたようです。
本当かどうかはわかりませんが、どうもビン会社の大手2社が売り惜しみをしたみたいなんですよね。
それで需給のバランスを崩して値上げをしたのではないかと複数の生産者がぼやいてました。
まぁビン会社も石油の高騰の影響をモロにうけるでしょうし、事情はあるんでしょう。
あとこれはウチの取引先生産者にもいるのですが、ビオロジーやビオディナミによる栽培に切り替えて、栽培スタッフを増員したことにより人件費が上昇したケースも最近増えています。
07年に関してはこれプラス、生産量が減ったこともあってさらに値上がりすると思います。

最近びっくりしたことがありまして、ブルゴーニュのドメーヌは生産量の一部を樽でネゴシアンに売ってるところも多いですよね。
そのドメーヌが樽でネゴシアンに売る価格の方が、ドメーヌが自分でビンにつめて売る価格よりも高くなったみたいなんですよ。コート・ド・ニュイの一部の超有名AOCだけみたいですが、歴史的に初めての出来事のようです。
コレすごくないですか?

だって樽で売ったら今売れるわけですよ。ビン詰めするということは2年くらいは寝かせて、ビン買ってラベル貼って、お客さんを見つけて・・・といろいろやって売るわけですが、それよりも今樽で売った方が高く売れるんですよ。
つまりは、経済合理性だけ考えると、自分のワインを作らない方が得ということになってしまうんです。
怖いのは、いよいよビン詰めして自社モノの価格を決める時に、「2年前にバルクで売ったのより安いってことがあっていいはずはない」って言いながら、その分ドーンと価格を上げる生産者がきっと出てくるだろうってことです。それと、ブルゴーニュの生産者は周りの生産者とか知り合いの生産者の価格を
とても気にしてて、あいつのワインより俺のワインの方が安くていいわけがない、と思って値上げする人も多いのですが、こういう要素も加われば、連鎖反応的に価格上昇スパイラルに入るかもしれません。
でも、注意しなくちゃいけないのは、かように樽で高く買ったネゴシアンは、ぶどうで安く買ったものとかとブレンドしたりして、必ずしもドーンと値上げするわけではないってことです。ドメーヌがかなり値上げすれば、ネゴシアンの方がお買い得ということになり得ます。
これって、何かネゴシアンのトラップみたいに思えるのですが、きっと私の考えすぎでしょうね。笑
いずれにせよ、価格が上がる背景がかように複雑になっているご時勢だからこそ、価格が上昇しているワイン=それだけ美味しいワイン、というのはほとんど成り立たなくなっていると私は思います。くれぐれも高値づかみをしないよう、よくよく気をつけないといけません。

W:この先未来永劫下がることはないですか?

U:それはわかりませんねー。まず原油が下がって、インフレが収まって、世界の景気がスローダウンして・・。
私、良くも悪くも、日本のワインバイヤーの中では最も価格交渉をしてる一人だと思うのですが、もちろん、何10%という値上げは不当で言語道断ですが、最近は、少なくとも資材価格の上昇分の値上げは受け入れないと、それはフェアじゃないと思うようになりました。
確かに、少しでも安く仕入れたいですが、生産者が不当に苦しめられてはいけないと思うんです。
ブルゴーニュワインなんて中腰で年がら年中畑仕事して、ヴィニュロンの平均寿命50代というような環境で造った考えてみればすごいモノですし、ある程度、合理的な値上げは理解してあげないといけないと思います。
誠実な生産者が安心していいものを造れる環境、よりいいものを目指せる環境というのは私たち買い手こそが支えてあげるべきだと思います。
わかりますもん。値上げする理由を聞いて。職人の切実な叫びです。
もちろん、値上げの理由もウチのお客さんにはきちんと説明しますし、ウチの取り扱い生産者に限っていえば、ほとんどは資材価格の上昇分だけですので、それほど大きな値上げがあるわけでもありません。

W:値上がり傾向の中で何か打つ手はあるのでしょうか?

U:のほほんと仕事をしていると荒波に揺られる小舟のように値上げの波に飲み込まれます。
消費者もそうで、何にもしないとどんどん値上げで、気がついたら買えなくなってしまうということもありえるでしょう。
先ほども申しましたが、特に高額ワインに関しては、できる限り情報収集して値上げの理由を個別に分析する姿勢が大事だと思います。
誠実な生産者であれば、値上げするにしても、買い手が納得できる合理的な理由を明確に説明するものですし、インポーターもそれを市場にきちんと伝えます。
びっくりするような値上げで、かつ、誰に訊いても値上げの理由がよく分からないような場合とかは、高値づかみのリスクが高まると私は思います。
今、遅ればせながらホームページを作りはじめてまして、この辺のことについても、参考にしていただけるような現地最新情報をどんどん提供していきたいと思っています。

あとウチで、値上げトレンドに対抗したいと思ってやるのが、例えば先ほどのモレ・サン・ドニですね。
あと、PBブランド的にウチで企画したクルティエ・セレクションというのをやってまして、現地の流通の世界にクルティエと呼ばれる一匹狼のような仕事師がいるんですね。ブローカーといいましょうか。
ブルゴーニュには公式登録者で70人くらいいるそうですが、彼らは、ドメーヌからルイ・ジャドとかブシャールといったネゴシアンにぶどう・果汁・樽売りの仲介をするのがメインの仕事なのですが、ビンで余ってるワインも仲介していて、その仕事が今ものすごい活発になってきています。
特に所有畑の面積が大きい生産者なんかは生産量も多いですから、ちょっと前のヴィンテージで今ちょうど飲み頃になっているものをまだイッパイ持ってます。
クルティエさん達はそのディープなネットワークを使って、その中で特にコストパフォーマンスが高いものを発掘し、紹介してくれます。
裸の状態のビンを買わなければいけない、そして生産者のラベルを貼るわけにもいかない。
それをどういう風にしたらわかりやすく伝えられるのかなと思ってはじめたのがクルティエ・セレクションです。
もちろん仲田さんに協力してもらってまして、実際のクルティエヘの支払いとかストック、ラベル貼りなどはルー・デュモンにお願いしてやっていたいだいてます。
従来の生産者のブランドももちろん大事ですが、ここまで価格が上昇傾向にある中で、ズバリ本質的な中身の美味しさに的を絞ったものを低価格で紹介できないかと思ってはじめました。

このシュル・ピルと呼ばれるビン買いものの買い付け競争はだんだん激しくなってきており、クルティエから出物が出ると、多くのネゴシアンの間で争奪戦になります。
まさにスピード勝負で、サンプルが届いたらすぐに試飲して決めるという。
ちょっと前まではここまでではなかったんですよ。時差で今はフランスの朝9時が日本の夕方5時ですので、何事も1日おいて返事する、くらいでのんびりしてましたが、今はフランスが動き出す時間から第二の1日が始まる感じになってしまいました。何時でもいいから携帯に電話くれっていう感じです。
自分たちも最速で動いているつもりなのですが、それでもたまに買い負けることがあります。
基本的に自分が飲んで決めるのですが、とんでもない掘り出し物がワッと出たような緊急時は仲田さんに飲んでもらって即決するということもあります。
仲田さんとはもう腐れ縁みたいなものですが、笑 味覚に関して言えば日本人としては他の誰よりも信頼しています。
仲田さんに試飲していただく場合も、一回だけではなくて、朝開けて夜まで時間をかけて味の変化を見ながら数回に渡って飲んでいただいています。
あっ、そうか。それがいけないのか!それをやってる間に他に買われちゃうのか。笑 
オーダーしたらもう売り切れましたと言われるわけですよ。1200本もあったのに!
余談ですが、今まで私が知る限り、他のネゴシアンがそういうのを買うとすごくマージンをのっけて売っています。
すごいのっけて、いわゆるそのAOCの標準的な価格で売るんです。
ジュブレの村名だったら日本の小売価格で6000~7000円くらいでしょうか。でもこういったワインのクルティエ価格はもっとずっと安いんです。
私たちは、普通に適正利益をいただいて安いまま出したいんです。
他のネゴシアンのやってることはそれが経済活動といえばそれまでかもしれませんが、そういうのを見てるとなおさら買い負けしたくないんですよね。
私、取引のないいろんな他のネゴシアンのオファーも現地ルートで入手するんですよ。でもみたら分かるんです。これウチが買い負けたアレだろー!と。
なんでこんなにのっけてるの!?とそりゃあ思いますよね。
もちろんウチもわざわざ薄利で出すわけではなく、仕事の分、適正な利益をいただきます。その上で酒屋さんも適正な価格で販売していただいており、それでも消費者価格は今の水準から比べると相当安いと思います。
生産者はちょっとかわいそうですけど、でもまあ在庫を換金できるのであればということですので、みんなハッピーだと思います。

ひとつだけ、クルティエ・セレクションはバックヴィンテージも多いのですが、特にブルゴーニュのバックヴィンテージや古酒は、仲田さんと私の経験上、極めてデリケートでとりわけ振動などの影響を受けやすいので、お手元に届いてから、数日間~1週間程度は落ち着かせてから飲んでいただければ、より美味しく飲めると思います。



次回は次の新しい流れについて熱く語っていただきます。

上田巨樹(うえだ・なおき)氏
1973年2月25日 山口県出身 上智大学外国語学部イスパニア語学科卒
山信商事株式会社在職中、チリ、ブルゴーニュへ駐在し、バイヤーとして活躍
2006年3月、(有)ヌーヴェル・セレクションを設立し、代表取締役に就任
趣味:将棋(3段、業界内でお相手募集中!)

【インタビュアー】 石井邦生(いしい・くにお)
叔父の酒屋を手伝ううちにワインに惹かれ、いつしか本気になってワインアドバイザーの資格を取得。調子に乗り、さらにワインショップやレストランで経験を積む。
このころにはワインの魅力にずっぽりはまり、この道で生きていくぞと決意。東急百貨店町田店ワイン売り場の専属スタッフを経てフリーになり、都内の百貨店にて販売に携わる。2006年には渋谷にワインバー『 Cabotte 』をオープン。
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